BnA Alter Museum

京都のBnA Alter MuseumのArt Room 803号室「vault」に作品が展示されています。2025年末迄、一年間の開催予定です。
Photo: Yuki Moriya

https://bnaaltermuseum.com/rooms/vault

2024年12月、BnA Alter Museumのウェブサイトには「日本の現代美術の白眉を見せる(showcasing the best of Japanese contemporary art)」と紹介されている。
ここで言う「日本」とは果たして、何を指して、何を指さないのだろうか。

国別に色分けされた世界地図を見ると、これが世界の姿だと思い込まされてしまう。
しかし、国の境界と社会の境界は必ずしも一致しない。

今期のArt Room 803「vault」ではその境界の狭間で、あるいはそのどちらでもない立場から、一貫した制作を行っているチョン・ユギョンを紹介したい。

在日コリアン3世として日本と朝鮮の文化の狭間で生まれ育ったチョン・ユギョンは、現在福岡を拠点に九州北西部での朝鮮人の様々な移動、逸話を題材に、いまある不自由や境界を考える作品を制作している。

日本による韓国併合、第二次大戦後は米露の進駐から分断が固定され、38度線の軍事境界線が設定された朝鮮半島。植民地化の余波から、また朝鮮戦争の影響を受けて日本へ密航した朝鮮人は、長崎県の大村収容所へ連れられた。
支配が終わった後も一方的な分断を受けた人々が迫害を受けた場所である、この大村の名を冠した架空の焼き物「大村焼」とそれに紐付く物語がここでは展示される。

小さな一輪挿しのように見える陶器は、第二次世界大戦末期に当時の鉄不⾜を理由に佐賀県有⽥町で実際に作られた「陶製⼿榴弾」をもとに型取りされた。
16世紀末、朝鮮出兵で多くの朝鮮陶工が九州に連れられ、そのうちの一人李参平により芽吹いた日本の伝統工芸・有田焼。戦争によって始まったこの焼き物が再び戦争に利用されてしまうサイクルに、作家は文化と戦争の絶えない関係を見出している。

最新作のサイアノタイプ(日光写真)のシリーズは作家が「大村焼の耳」と呼ぶ、陶器を鋳込むときにできる端材から制作された。
釉薬によって焼成された大村焼の青さとも響きながらどこか不鮮明に現れる青写真のモチーフは、境界をはみ出た人々、あるいは歴史からこぼれ落ちた人々の耳1のようにも見ることができる。

朝鮮半島と日本の歴史は寄せては返す波のように、戦争と迫害、文化の往来が古代から繰り返される。その波打ち際に砕かれて眠る貝殻のような陶片。
京都は茶道の隆興によって焼き物や工芸品の需要と伝統が根付く場所であるが、それは日本だけでなくアジア全土から異なる他者や文化が影響しあって発展してきた幾つもの作品が京という都に集約されて生まれたものであり、多様なアイデンティティを内包するものである。その中には、これまで歴史や社会に於いて無いものとされてきた声や物語も含まれている。

長い歴史の果てに生まれた政治的に複雑な「今」に目を向けながら、過去と未来を繋いで旅する人たちのための部屋。

Director: 見目はる香 Haruka Kemmoku(oar press
撮影: 守屋友樹
Art Director: Artroom produced by 筒井一隆, BnA & sumar works
Interior Designer: sumar works | 河合美緒

※ 本ホテルから程近い場所にある豊国神社には、朝鮮出兵の際に将兵たちが豊臣秀吉に戦勝の証として日本に送った朝鮮人の耳を祀る耳塚がある。

  • URLをコピーしました!
目次