「大村焼」

会期:2024年2月9日[金]−2月12日[月] 11:00 − 18:00
第一会場:まちのオフィス春陽堂 
     〒844-0004 佐賀県西松浦郡有田町大樽2-3-6
第二会場:有田中の原 AGITO 二階 
     〒844-0009 佐賀県西松浦郡有田町中の原2-1-13

本展は、有田町に約三ヶ月滞在し、作品制作を行ったチョン・ユギョンによる有田町では初めての個展となります。
展覧会は、「まちのオフィス春陽堂」と「有田 中の原 AGITO」の二会場で同時開催いたします。第一会場では、大学時代から続けている全点新作の絵画作品を9 点展示し、第二会場では、有田町の窯元に協力をいただき制作した陶器の作品を中心に、制作に使用した鋳込み型やシルクスクリーン、フィルムなどの素材や資料も合わせて展示いたします。

チョン・ユギョン(1991 年、兵庫県神戸市生まれ)は、高校までを関西で過ごしたのち、朝鮮大学校(東京都小平市)で美術を学びました。2017 年からはソウルに拠点を移し制作を続けていましたが、2018 年、在外国民の男性も韓国に3 年以上居住すると徴兵義務が課せられることになった韓国の徴兵制度の「改正」に伴い、帰国することを余儀なくされ、2020 年に帰国しました。その後、九州が持つアジア諸国とのさまざまな「交流」の歴史に活路を見出し、福岡を新たな活動拠点としています。

日本に帰国してからのチョンは、家族の歴史に関連する土地に住んだり、朝鮮との関係が深い有田町で陶器の制作工程を学び作品に取り入れたりなど、「自分」という小さな個人史と、「朝鮮と日本」という大きな歴史を行き来しながら、自身が置かれた政治的に複雑な状況をどのように作品で表現するか、このような状況を生みだした歴史とは何かを作品で問い直そうと試行を重ねています。

本展のタイトルにある「大村焼」の「大村」とは、長崎県大村市を指します。
1950 年12 月、「不法入国者」とされた韓国・朝鮮人を本国に強制送還するための施設である大村入国者収容所(現大村入国管理センター)が大村市に設置されました。この周辺一帯は古くから「放虎原(ほうこばる)」とも呼ばれており、皮肉にも「文禄・慶長の役」の際に朝鮮半島から持ち帰った虎を放った原っぱであると言い伝えられているそうです。このような歴史を背景に、チョンは、「大村」という土地は、韓国・朝鮮人を収容した「不自由」と、放虎原と言われるように朝鮮半島と日本の「境界」を暗示させる重要な場所であると考えています。国家や民族など、常に何かの境界線上にさらされ揺れ動いてきたチョンにとって、「大村」という土地に目を向けることが「大村焼」のテーマであると語っています。
さらに、1940 年代に当時の鉄不足を理由に、有田町で実際に作られた「陶製手榴弾」を復元・型取りした陶器の表面に韓国の兵務庁からチョン宛に届いた通告書の文章などを絵付けることで、架空の陶磁器「大村焼」を完成させています。作品にたびたび登場する有刺鉄線や波紋様は、自身と「祖国」を隔てる場所を記号的に示唆しています。
「先の戦争」と語られることが多い過去の戦争も、チョンにとっては現存する問題として眼前にあり、朝鮮半島は未だに休戦中で分断しているという事実を日本生まれであっても徴兵制度に巻き込まれる過程で強く思い知らされ、チョン自身の存在も見えない境界線によって篩にかけられています。「戦争を知らない世代」という言葉がありますが、そう言った言葉ではこぼれ落ちてしまう視座があるのではないでしょうか。
大きな歴史と小さな個人史が「陶磁」という存在で繋がる有田町で開催する本展が、今を過ごす「現実」に対して新たな気づきや視点を与えることにつながればと願っています。

最後になりましたが、本展開催におしみないご協力をいただいた特定⾮営利活動法⼈灯す屋のみなさま、公益財団法⼈アイスタイル芸術スポーツ振興財団、幸楽窯、LTNS ART STUDIO のみなさまに心より感謝申し上げます。

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